前々から気にはなっていた、「日々是好日」お茶にまつわる映画。何かきっかけが無いと、手に取る事はない私、前職の本社の部長に再会した時に、不意に紹介される。その前に、千利休のお弟子さんだった本覚坊さんのメモをまとめた、井上靖著「本覚坊遺文」も同じ部長に薦められて読んだところだった。
「本覚坊遺文」の清々しさというか清貧さが、私のツボにはまった、謙虚な生きざまを見る事ができる。お茶にまつわる「日々是好日」の本があるとも知らなかった。映画は視覚からのイメージが先行するので、避けていた感があって、本があるなら自分のイメージで場面が展開する、なので薦められた本をkindleで読んでみる事に。
本で読む「日々是好日にちにちこれこうじつ」
傑作だった。お茶を習い始めて、私も何年も経つのに何一つ満足にできた試しがなくて、作者の思いがどれもこれも当てはまる。
先生に言われるがまま、所作を進める、自分では操り人形になった気分。それでも、毎回先生は、上達していると言う。私には何一つ分からない、お釜の位置が移動する度に変わる動作、棚が変わる度に飾り方も違う。何が奥深さなのか、分からなかったけれど、ただたた炭で湯が沸く、シュンシュンとお釜から音がする、時に炭にお香を入れてくれる先生、香りや音、その空間が癒される。
私も作者と同じく、上達しない自分に疑問を持つのだけれど、嫌なことがあっても、悲しい事があっても、お茶を飲んで、お菓子を食べる、それが、自律神経を正してくれるような、そんな瞬間を何度も感じていて、今に至る。
私の住む地域では、熱田神宮のお茶会は、本中にあるお茶会に重なる。「まーまー」と、狭いお茶室にコロナ前は無理やり入りこみ、障子が外れた事件が云われ伝えられている。笑。私から見てもお姉さん達が軍団で、お茶席を渡り歩く。そして、お正客を譲り合い、場所取りゲームは必死の形相になる。
本を読んでお茶あるあるが、関東でも中部でも似たようなものなんだなと驚きつつ、安心した。
千利休の生き方は、今や想像するしかないけれど、死を覚悟した武将にお茶をたて続けた、その思いは、茶道の基本になっていると思う。読まれてなくて、興味があれば「本覚坊遺文」を誰にも読んで欲しい。千利休の自死を問い続ける本覚坊、時を経て、私たちの感情に寄り添ってくれる。
映画で見る「日々是好日にちにちこれこうじつ」
樹木希林という女優さんの個性が強すぎて、違う女優さんバージョンを見てみたいと思った。黒木華も多部未華子も好きな女優だが、主人公は多部ちゃんが良かったなーというのが素直な感想。
鶴見慎吾のお父さん役は良かった、なんだか儚い父の姿にピッタリたど思った。
樹木希林の晩年の作に近いようで、まるい背は、お婆さんを思わせ、お茶茶碗を扱うその手は、おそらく同じ年齢の女性よりは美しいのだろうけど、指1本1本に人生の重みを感じる。
映画にありがちな「今のままの自分でいいんだよ」というメッセージがヒラヒラと画面の片隅にちらついて、残念な気分。
黒木華も悪くないけれど、やっぱり従妹役の多部ちゃんは、引力がある。映画中に多部ちゃんからのハガキが、名古屋の大須からだったことは、大須に住んでいた身としては嬉しく感じた。
本の著者、森下典子さんが、本のあとがきで、もっとたくさんの事を書いたんだけど、随分と削ったものを出版する事にしたとあった。そうだろうな、すごく簡単に想像がつく。多分、この映画も、およそ2時間に収める為に、色々を端折るとこうなるんじゃないかと、思った。
この映画の評価の高さは、きっとお茶のお稽古を知っている人が多く審査員にいたんじゃないかと思う。多分、すごく良い作品だから、私のもっとできたんじゃないかという思いが感想になってしまうんだけれど、この作品を映画に選んでくれた事が嬉しいし、お茶の奥深さをもっと、誰かが面白いと思って欲しい。
熱田神宮
名古屋の熱田神宮でも、毎月15日にお茶会が開かれています。8月は休会ですが、濃茶席と薄茶席2席ふるまわれ、表千家、裏千家、武者小路千家など、各流派が受け持って、月々違うお茶席が設けられます。
それこそ何時に起きたの?と思うほど早朝に着物を着て、ほぼ女性が大軍をなして熱田神宮に集います。
私は表千家の時にしか、行った事がありませんが、表千家一門は多いらしく、賑わっています。
コロナ中は2年、お茶会は取りやめになっていて、再開にあたり、中止前のチケットを消化させてから、一般の発売になりました。濃茶は回し飲むのですが、さすがに今や濃茶は個人にふるまわれ、お菓子も不自然なプラスチックケースに1つづつ入って配られます。
時代に合わせて、お茶も変化していくのでしょうが、背筋が伸びるお茶席、お茶席を主催するご亭主と正客の方のお話は、本当に勉強になります。季節、場面に合わせた軸や、お花、道具を選び、茶杓1本にも物語がある、もてなしの心しか感じない、癒しの空間です。自分自身をピンとさせることができます。